テブナン分圧ポリフェーズミキサー
アナログ乗算器 特願2024-117436(特許登録予定)

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2025年 8月 26日
細田 隆之

概要

疑似正弦波等の重み付けをテブナン分圧で行いフィルタの一部としたポリフェーズミキサーです。
局部発振信号の奇数次高調波の影響を受けにくく低コストで実現可能なアナログ乗算器を提供します。

背景

近年の IoT や Bluetooth などの近距離・省電力の RF SoC などではコストや消費電力の観点からダイレクトコンバージョンが全盛です。 イメージリジェクションのために設けられる表面弾性波フィルタなどもコストや大きさの観点から使わずに済ませたいという要求も強くなってきて、 IC の内部等で、低次の高調波の妨害を受けにくいポリフェーズミキサーがまた見直されてきています。

従来の技術

単純アナログスイッチ型周波数乗算器では、 クロック信号(周波数 f )の奇数次高調波(周波数 3f、5f、7f、…)に対してもエイリアスを生じるため、 その影響を軽減するには受信信号に適用する帯域通過フィルタを狭帯域とする必要があります。 このため、スイッチ部は安価で低消費電力なものの、帯域通過フィルタを実現するアナログ回路のコストや部品点数の制約が大きいです。

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Fig.1 単純アナログスイッチ型同期検波回路 ブロック図

一方、ディジタル信号処理を用いた方式では、オーバーサンプリングによって入力のBPFを簡素化できるものの アナログ・ディジタル変換やディジタル信号処理に用いるロジック回路の規模や消費電力がコストや製品化の制約となっています。

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Fig.2 ディジタル型同期検波回路 ブロック図

特徴

擬似正弦波になるように重み付けされた入力信号をアナログスイッチで切り替えることにより、 局部発信周波数の低次奇数次高調波によるエイリアスを排除してます。 従って入力バンド・パス・フィルタの簡素化が可能となっています。 また、重み付け部はミキサの出力端子からみたインピーダンスをアナログスイッチを含めて一定になるようなテブナン分圧としています。 これは後段のフィルタを構成する素子の一部として機能するため簡素化および性能劣化要因の低減が図れます。 これらの特徴によりコンパクトで低コストなアナログ乗算器が実現可能となっています。

特許請求項より:

入力信号に対し複数の異なる重み付けした複数の重み付き入力信号を生成する重み付け回路部と、 切替信号に基づいて、複数の選択端子の何れかと共通端子とを接続するアナログスイッチ部であって、前記重み付け回路部が生成した重み付き入力信号が複数の前記選択端子に入力される、アナログスイッチ部と、 所定の局部発振周波数の有理数倍の周波数の基準信号を出力する基準信号発振器と、 前記基準信号から、前記局部発振周波数の1周期を整数分割した分割区間ごとに共通端子に接続する選択端子を規定する前記切替信号を生成する切替信号生成部と を備えるアナログ乗算器であって、 前記重み付け回路部が、局部発振周波数の正弦波の前記分割区間ごとの正規化積分値に対応した重み付けをした複数の前記重み付き入力信号を生成し、 前記重み付け回路部での重み付けが抵抗および/または容量により実現され、前記共通端子にいずれの前記選択端子が接続されるかに関わらず、前記アナログスイッチ部の出力端から見た信号源インピーダンスが一定となるように前記抵抗および/または容量の値が定められ、 前記重み付け回路部が、アナログ乗算器の後段に設けられ前記アナログ乗算器を含んで構成される検波回路の最終出力となるフィルタを構成する素子の一部として機能することを特徴とするアナログ乗算器。

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Fig.3 擬似正弦波型同期検波回路 ブロック図

疑似正弦波

正弦波を 12 の区間に等分割したときの各区間の積分値を区間値とする 6レベルの擬似正弦波について説明します。

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Fig.4 擬似正弦波及び疑似余弦波(6レベル)

正弦波の対称性から各区間の値の絶対値は以下の3つ a1, a2, a3 となります:


\begin{eqnarray}
a_1 &=& \int_0^{\pi/6 } \sin(x) \mathrm{d}x = \frac{ 2 - \sqrt{3} }{2} \\
a_2 &=& \int_{\pi/6}^{2 \pi/6 } \sin(x) \mathrm{d}x =  \frac{ \sqrt{3} - 1}{2} \\
a_3 &=& \int_{2\pi/6}^{3 \pi/6 } \sin(x) \mathrm{d}x =  \frac{1}{2}
\end{eqnarray}

最も絶対値の大きい a3 が 1 になるように正規化すると a1, a2, a3 の近似値は次のようになります:


\begin{eqnarray}
\frac{a_1}{a_3} &=& 2 - \sqrt{3} \simeq 0.2679491924\\
\frac{a_2}{a_3} &=& \sqrt{3} - 1 \simeq 0.7320508076
\end{eqnarray}
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Fig.5 矩形波および 擬似正弦波(6レベル)のスペクトル

E24 系列の値の比として近似する r1, r2 を考えると 75, 130 の組み合わせが良い近似となることがわかりました:


\begin{eqnarray}
r_1 &=& \frac{15}{56} = \frac{75 +   0}{75 + 130 + 75} \simeq 0.2678571429\\
r_2 &=& \frac{41}{56} = \frac{75 + 130}{75 + 130 + 75} \simeq 0.7321428571
\end{eqnarray}

\begin{eqnarray}
\frac{a_1}{a_3 r_1} &\simeq& 1.0003436517429\\
\frac{a_2}{a_3 r_2} &\simeq& 0.9998742738
\end{eqnarray}
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Fig.6 矩形波および 擬似正弦波(6レベル, E24系列有理近似)のスペクトル

従って,r1, r2 を抵抗分圧で実現する場合に抵抗値を r1 = 75, r2 = 130 とすると r1r1 + r2 の並列合成抵抗 rp は次のようになります:


\begin{eqnarray}
R_p &=& \frac{3075}{56} = \frac{75  \times (75 + 130)}{75 + 130 + 75} \simeq 54.91071429\\
\frac{3075}{56  \times 54.9} &\simeq& 1.0001951600312
\end{eqnarray}

適用箇所

実施例

下に、同期検波用に設計した、テブナン分圧・フィルタ一体型ミキサーの回路例を示します。
この回路の要点は、オペアンプのコモンモードよる歪を避けるために入力の動作点をグランドとすることと、 アナログスイッチの制御信号からのチャージ・インジェクションの影響低減のためスイッチ出力をキャパシタ受けにしていることと、 参照グランドのスイッチングによるチャージ・インジェクションを補正信号としていることと、 ローパスフィルタ初段の入力から見たインピーダンスを等しくして歪の低減を図っていることです。

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Fig.7 6レベル擬似正弦波型同期検波回路 回路図

また、回路図にはありませんが、制御信号の配線は伝送線路にして、適度に遅い HC-MOS を直列終端で ドライブすることによりアナログ・スイッチ側のグランド電位の変動を避けつつ、 アナログ・スイッチ近傍に配置した抵抗と入力容量も使って dV/dt を減らして制御信号が要因のノイズや変動を低減しています。 制御信号はグレイコードとすることによりトランジェントの影響を低減しています。

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Fig.8 6レベル擬似正弦波型ミキサー 制御信号

追補 — テブナンの定理の応用例

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Fig.9 テブナンの定理の応用例

Download Tevnin.asc — the schematic file for the LTSpice XVII.

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