自然の雑音
熱雑音
電力が4KTBで表される自然の雑音です。ここで、Kはボルツマン定数、Tは
絶対温度、Bはバンド幅です。例えば1kΩの抵抗は常温(300K)で4.07
nV/√Hzの雑音電力密度の雑音源と考えられます。(例題)
熱起電力による雑音
異種の金属が接触していて、その両端で温度差があると熱起電力が発生します。
これを利用したものが熱電対ですが、それが意図しないものであった場合は雑音に
なります。特に微少電圧回路ですと、トランジスタやICのピンとはんだと銅箔パ
ターンとの間の温度勾配による雑音が問題になったりします。こういう場合は、温
度勾配を減らすために回路を銅ブロック上に回路を設け、配線は銅のスタッド上に
圧着で接続したりします。また、発熱をできるだけ少なくし、風による温度変化も
考慮します。
例題 :
具体例を挙げて考察してみましょう。
例えば、送信機に接続されるマイクロフォンの増幅器ですが、マイクの信号レベ
ルが規定値以上になると、出力が飽和してスプリアスを発生したり、デビエーショ
ンが広がるなどの弊害が発生するため、ある一定の信号レベルを越えないように、
自動的にレベルを制限する必要があります。ちなみにマイクと口との距離でも40
dB程度は容易にレベルが変動しますし、かなり訓練されたアナウンサーでも声の
大きさの変動は20dB程度はあります。自然さを損なわない範囲で制限をかける
とすると、およそ60dB程度の制限域があれば良いものとします。ここで、制限
型増幅器を実現するのに、ボリュームの代わりに、電子式可変抵抗素子としてFE
Tを採用したとします。さて、FETが抵抗として働けるドレイン−ソース間電圧
は、歪みを数%程度許容したとして、10mV程度までです。通常の小信号FET
ですと、チャネル抵抗値は100Ω程度から数MΩ程度ですが、ゲートの制御電圧
に対して、ログリニアな範囲を考えると330Ωから1MΩ程度のあたりが使えそ
うです。そうすると、最大で60dBのアッテネーションを得るためには、アーム
抵抗は、330KΩにする必要があります。ここで、アッテネーションが最少の時
のことを考えます。制限がかかりはじめる時のレベルで、330KΩの信号源抵抗
で10mVということで、熱雑音に対するS/Nを考えてみます。抵抗の熱雑音電
圧は、√(4KTBR)ですから、温度が最大60℃、帯域幅が20KHzとすると、
雑音電圧Vnは、
Vn =√(4×1.38e23×333×2.0e4×3.3e5)
≒11μV
S/N≒20log(10m/11μ)
≒59dB
歪み率やS/Nの値は通信機用としては十分な値ですが、放送用としては不十分で
す。性能を改善したい場合は、どのような方法が考えられますか。
note: ボルツマン定数 : 1.38e-23 [J/K]
© 2000 Takayuki HOSODA.