外来雑音

 外来雑音としては、電源ラインから直接入ってくる雑音、電波として入ってくる 雑音、電磁誘導や静電結合で入ってくる雑音、機械的振動から間接的に生じる雑音 などがあります。他にも通信機などの場合は、目的の電波以外のものは総て雑音に なります。電源ラインから入ってくる雑音で、主なものは次のようなものです。

落雷や雷の誘導
故障を引き起こす大きな雑音で、数kVの誘導が発生することもあります。対策 としては、地面に対して電位を持たないように、シールドや接地を細かく行います。 また、電源ラインには、雷アレスタやサージアブソーバ、ラインフィルタを設けま す。シャシーの外に出ていく信号線にはサージアブソーバやノイズフィルタ設け、 配線は金属パイプなどの中を通しパイプを接地、または地中に埋没する必要がある かもしれません。いずれにせよ、雷の直撃を受けた場合は、ほとんど保護は不可能 です。
商用電源の瞬間停電
商用電源が1/2サイクルから数サイクル停電することによる雑音で、誤動作を 引き起こす原因になります。対策としては、電源回路の平滑コンデンサの容量を大 きくする、バッテリーを併用する、UPS(無停電電源)を使用するなどの方法が あります。
電源雑音
 同じ電源ラインに接続されている、モーターや他の電子機器から発生する雑音で す。基本的には、雑音は元から断たなければならないのですが、自分はそういう雑 音を出さないような設計を心掛け、何かが少々雑音を出してもくじけない回路設計 をしておくことが重要です。具体的には、電源のインレットにノイズフィルタ内蔵 のものを使用し、必要があればノイズカットトランスを設けて、まず、装置内部に 雑音が入らないようにします。その上で、安定化電源の入出力部に積層フィルムコ ンデンサを使用したり、電源のPSRRを改善したり、電源の雑音が信号線に誘導 しないように、雑音に敏感な高インピーダンス部や微少信号部は電源から離して配 置し、シールドを行います。
商用周波雑音(ハム)
 受信機などでは「ブーン」と聞こえる雑音ですが、今時この雑音をだすような設 計や実装は、かなり技術者として恥ずかしいものと言えます。原因のほとんどは、 どこかにグランドのループが出来ていて、そのループを商用電源の変化する磁界が 貫くことによる誘導雑音です。多くの場合、適切なシールドと、一点アースで解決 できます。あるアンプが、どことどこの電位差を増幅しているかを考えれば、どの ように接続すれば良いかわかるはずです。もちろん、雑音は元から絶つという原則 から考えて、例えば、電源トランスのリーケージフラックスが多いのであれば、ト ランスに銅板を巻き、リーケージフラックスを囲むショートリングを設けて対策し ます。このショートリングに誘起する電流が発生する磁界は、もとの磁界を打ち消 す向きですから、結果としてリーケージフラックスを低減することが出来ます。  グランドループが原因でなかったとしたら、高インピーダンス部分への静電結合 を疑ってみます。高インピーダンス、微少信号部分の近くに商用電源ラインやトラ ンスがある場合、まず、それらを遠ざけます。その後、該当回路部分をシールドす ることで解決できます。負帰還増幅器の加算点(サミングポイント)では、少しの 雑音電流が流れ込んでも、負帰還抵抗倍の雑音電圧として出力されます。これを防 ぐために加算点と同電位の低インピーダンスの信号で加算点を囲むガードリングと 呼ぶ配線パターンを設けることがよくあります。静電結合でも無い場合、ことによ ると、商用電源で点燈している光が、ダイオードなどに受光して信号に混ざってい るとか、電圧のかかっているコンデンサに商用電源で動作しているファンなどの振 動が伝わって信号に混ざっているとか、といった可能性もあります。
電波のまわりこみ(Radio Frequency Interference)
信号線などに、電波によって雑音が誘起されることによるものです。低周波アン プなどに帯域外の信号が入力されると、素子の非直線性による検波作用によりドリ フトが発生したり、バイアス条件が変化して異常動作が起きたりします。電力的に 大きい場合は、回路破壊も考えられます。対策としては、まず、出来るだけ十分な シールドを行い、外部につながる信号線には目的帯域以外を通さないようにLPF やBPFを使用します。入出力保護を兼ねて電波のまわりこみ対策を行っておくの が基本です。対策部分は、シャシーの出入口と、アンプなど半導体部品のすぐ側で す。
静電気放電(Electro Static Discharge)
 ある物質とある物質の間に電荷が発生したあと、その二つが引き離されると、 大きな電圧が発生します。(note) 例えば、10μmの距離が1mに離れたとして電圧は5桁も大きくなるわけです。 これが静電気の放電の原因です。オペアンプや高周波低雑音用FETなどでは、こ の静電気の放電で、ベースやゲートが破壊されたり、コンダクタンスが低下するよ うな故障が起きたり、そうでなくても、信号ラインに入った場合は雑音になります。 対策としては、まず、静電気の発生を防ぐため、装置の周囲の湿度を管理したり、 静電気が発生しにくい材質にしたりします。設計上はESDが起っても誤動作した りしないように、信号入出力に、グランドに対して並列に小容量のコンデンサと放 電経路用の抵抗、信号に直列に電流制限用の抵抗を設けるといったノイズフィルタ と、電源に対してシリコンダイオードで放電経路を設ける事でESD耐性を上げる ことが出来ます。また、信号のインピーダンスを不必要に高くしないこと、信号線 が外部に露出しないこと、シールドを正しく行うことが必要です。また、電気的に 回路のどこにも接続されていない金属(デッドメタル)があった場合ESD耐性が 低下するので、適当な電位に接続(通常は接地)します。これは、静電容量マトリ クスのメンバーが接地されていないと考えれば、他の部分との静電結合で障害を起 こすというのが理解できます。また、プラスティック部分は帯電防止コーティング を施すとESD耐性が上がります。

note: 電圧V、距離d、面積S、誘電率ε、電荷qとして、V=εdq/S
© 2000 Takayuki HOSODA.