概要
AX キーボードは、36年以上にわたりデスクトップで使い続けてきた相棒です。 その間、必要に応じて手を入れてきました。 EMI シールドの追加、摩耗した接点の修復、コネクタ周辺のパターン断線修理、 コネクタとグラウンドの補強、黄変したケースの RetroBrite による再生、 そして現代の環境でも使えるように DIN—PS/2 から USB への変換も行っています。
最初は i80286 システムの横で使い始め、その後 386、486、Pentium、 さらに Core i7 の世代まで使い続けてきました。 OS も PC-DOS、PC Unix、IBM-DOS、 Windows 98SE、NT、7、10、11と移り変わってきました。 コネクタも 5ピンDIN DIN-41524 規格の IBM PC/AT用 5 ピンコネクタ から PS/2、そして USB へと変わりました。 それでもこの AX キーボードは、2026年の今も自宅で現役です。
近年ではサイズの大きさや打鍵音の特徴から、 NiZ Atom66 や PFU HHKB Professional Type-Sといったコンパクトなキーボードを使うことが増えました。 それでも AX は単なる保管品ではなく、整備された状態で必要に応じて机に戻ってきます。
マシンや OS、インターフェースが変わっても、 AX キーボードは変わらずそこにあり、 手とマシンの間に静かに存在し続けています。
気に入っているキーボードのひとつ
なぜ AX か
FM-8 でタッチタイピングを覚えたことが、 その後のキーボードの好みに強く影響しています。
IBM AT 84キー(Model F)や SUN Type 3を経て、 最終的に AX キーボードに落ち着きました。
AX キーがあるため通常の位置に ESC キーが存在せず、
代わりに1 キーの左に配置されています。
また独特な Enter キー形状のおかげで
~ や ` も近く、
スペースキーが小さいため復帰も速く扱いやすいです。
製造日 1990年 6月 22日、シリアル番号 K6005000035
断線パターンの修理
27年ほど経過した頃—おそらくアクシデントで落した後から—動作不良が発生し始めました。 ROM の故障も心配しつつ分解したところ、コネクタのはんだが外れ、周辺のパターンが断線していました。
コネクタの再はんだ付けと断線修理、 設計寿命を大きく超えていた電解コンデンサの交換を行いました。 取り外したコンデンサは 23 μF を維持しており、意外にもまだ健全でした。 交換のついでにグラウンドも補強しています。
メカニカルスイッチの修理
AX キーボードの 6 キーが接触不良を起こし始めました。
実験しながら使用していたため、レジンやサーマルコンパウンドなどによるコンタミネーションが原因かも知れません。
とりあえず、予備に買っていた東プレの Realforce 86U を出してきました。 キー配置は ANSI 配列 (tenkeyless) ですが、これも 信頼できるキーボード の一つです。
11月3日は文化の日。
6キーの接触不良でしばらくの間使っていませんでしたが、これもひとつの文化だと思い、修理してみることにしました。
スイッチを分解してみましたが、腐食は見られませんでした。 さらに分解を進めると接点にはシリコーンオイルのような汚れが付着していました。 エタノールやプロパノールでは改善しませんでしたが、n-ヘキサン系のパーツクリーナーで洗浄することで回復しました。 あわせて接点圧を少し上げる調整も行いました。
RetroBrite処理
長年使用して黄変した ABS 樹脂を戻すため、
RetroBrite 処理を行いました。
我が家には強い UV 光源がないため、
過酸化水素と
漂白促進剤
TAED (Tetraacetylethylenediamine)
の混合液に浸し、直射日光に 4日間さらしました。
初日でかなり白さが戻り、 4日後には目に見えて改善しました。
DIN5-PS/2-USB変換
昨今の Windows 11 の PC には PS/2 ポートがありませんが、 DIN5 → PS/2 アダプタと PS/2 → USB 変換器を使うことで、 現在でも AX キーボードを使用できます。
Windows 11 レジストリ設定
現代の Windows 11 環境から見ると、 この AX キーボードはキーのスキャン速度や通信速度が非常に遅い部類に入ります。 さらに PS/2→USB 変換を介しているため、 それがボトルネックとなり、若干の問題になることがあります。
また当時の AX キーボードには Windows キーやアプリケーションキーが存在しません。 そのため Windows 11 のレジストリに設定を追加し、 ポーリングレートの調整とともに、 Caps Lockキー を Windows キーに、 AX キーをアプリケーションキーに割り当てることで、 実用的に使えるようにしました。
Windows Registry Editor Version 5.00 ; ------------------------------- ; AX Keyboard configuration ; ------------------------------- ; Parameters for the PS/2 keyboard controller driver (i8042prt) ; Increased timeout values to tolerate slow legacy keyboards ; Override keyboard type to use the US 101-key layout [HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Services\i8042prt\Parameters] ; Increase timeout for slow PS/2 devices "PollingIterations"=dword:00002ee0 "PollingIterationsMaximum"=dword:00002ee0 "ResendIterations"=dword:00000003 ; Force US 101 keyboard layout even in Japanese keyboard environments "LayerDriver JPN"="kbd101.dll" ; Override keyboard hardware identification ; to treat the device as a PC/AT 101-key keyboard "OverrideKeyboardType"=dword:00000007 "OverrideKeyboardSubtype"=dword:00000000 "OverrideKeyboardIdentifier"="PCAT_101KEY" ; ------------------------------- ; Key remapping ; ------------------------------- ; CapsLock -> Left Windows ; AX key -> Application [HKEY_LOCAL_MACHINE\SYSTEM\CurrentControlSet\Control\Keyboard Layout] "Scancode Map"=hex:\ 00,00,00,00,\ 00,00,00,00,\ 03,00,00,00,\ 5b,e0,3a,00,\ 5d,e0,5c,00,\ 00,00,00,00
ゲームチェンジャー — コンパクトかつフルプログラマブルなキーボード
AX キーボードを使い続けてきた主な理由は、
メカニカルスイッチの明確で心地よい打鍵感と疲労の少なさ、
そして ESC や ~ ` キーがホームポジションから遠すぎないこと、
さらに戻りの軽いスペースキーにあります。
しかし NiZ が、 高信頼な静電容量方式スイッチ、 軽いキータッチ、 フルキーのプログラマビリティ、 そして Bluetooth 対応を備えたコンパクトキーボードをリリースしました。
タッチタイピングができればキーキャップの刻印は不要であり、
キー配置を自由にデザインできます。
66キー という最小構成でありながら、
ESC、~ `、| \ を任意の位置に配置でき、
矢印キーも近く、Windows キーも備えています。
組み合わせマクロやポインタ移動機能まで含めてプログラム可能であり、 RGB LEDバックライトも備えた NiZ Atom66(XRGB)は、 長年思い描いていた理想に非常に近いキーボードです。 現在はメインの作業環境では AX に代わってこれを使用しています。
内蔵リチウム電池に問題があったため取り外し、 現在は問題なく使用しています。
追補 — 信頼できるキーボード
1990年前後に JAL の業務端末で使用されていたという高信頼性の AX キーボードを譲り受けたことがあります。 専用キーが多く見慣れない配列でしたが、とても打ちやすくて疲れにくく、音もソフトで静かでした。
「このキーボードは機械接点を使っていないんだよ」
先輩がそう教えてくれたのが、東プレ製静電容量式キーボードとの最初の出会いでした。
「一般向けにも出してほしいなー」
と思ってはいたものの、それはしばらくは実現しませんでした。
その後 21 世紀に入った数年後、 PFU がコンパクトな静電容量式キーボードを発売したことを知り、すぐに試してみたくて、 秋葉原のサーバー関連専門店に入荷と同時に行って買ったのが HHKB Professional です。
キーストロークはやや長く、押下と復帰のヒステリシスのせいかキー離れがわずかに遅く感じられるものの、 あの感触は確かに再現されていました。
「これはまさにあのキーボードだ」
後に東プレの静電容量スイッチであることを知りました。 5,000万回の寿命を持ち、事実上のライフタイムデバイスであり、 Unix 用途に適したキー配列を備えた HHKB Professional および Professional 2 は、 それ以来サーバーのコンソール用キーボードとして使われ続けています。 キー配列と機能が固定されているため、キーボードが交換された場合や別の管理者が使用する場合でも挙動が変わらず、 サーバー用途に適していると考えているからです。
これらのモデルも、時の経過とともにライフサイクルの終わりを迎えています。
キーマップ変更不可という意味での直接の後継機種は 2026 年現在 HHKB Professional Classic PD-KB401W になると思います。