背面導体付きコプレーナ伝送線路

準TEM CBCPW 解析

conductor backed coplanar wave guide geometry
2026-03-04 改定
2022-12-26
細田 隆之

概要

背面導体付きコプレーナ伝送線路(Conductor-Backed Coplanar Waveguide:CBCPW、 Grounded CPW:GCPW とも呼ばれる)は、 中心導体、同一平面上の接地導体、および誘電体基板裏面の接地導体から構成される準TEM平面伝送線路である。

本稿で示す解析式は、等角写像法に基づく準静的解析により導出されており、 特性インピーダンスおよび実効比誘電率は第1種完全楕円積分によって表される。 楕円積分比の評価には算術幾何平均(Arithmetic-Geometric Mean:AGM)法を用い、 数値的安定性と高精度を確保している。

従来の閉形式 CBCPW 式は、導体厚さが無限小 (t → 0)であることを前提として導出されている。 実際の PCB 構造では有限の導体厚さを有するため、その影響を考慮する必要がある。 幅補正型の厚さ補正は特性インピーダンスの精度向上に有効であることが知られているが、 インピーダンスと実効比誘電率(すなわち位相定数)との整合性を必ずしも保持するとは限らない。 誘電体基板上に支持された構造では、電界エネルギーの空気側と誘電体側の分担が変化するため、 基板上での波長短縮率に小さいながらも系統的な差異が生じる場合がある。

本モデルでは、有限導体厚さの影響を一次補正として取り入れ、 経験的な付加容量項を導入するのではなく、 準静的電界エネルギー分布の再配分として定式化している。 具体的には、空気側楕円積分項に対して選択的に補正を適用することにより、 準静的枠組みの中で特性インピーダンスと実効比誘電率の物理的一貫性を維持することを目的としている。 補正係数 α = 2.6 は、代表的な PCB 構造に対する二次元静電界シミュレーション結果に基づいて較正した値である。

後述する適用範囲内において、本定式化は二次元静電界シミュレーション結果と通常数 % 以内で一致し、 特性インピーダンスおよび実効比誘電率の双方について良好な整合を示す。 本モデルは、準TEM 領域における PCB 設計のための工学的見積りを目的としている。

Conductor-Backed Coplanar Waveguide Analysis

) MHz
deg
μm
μm
μm
μm
Characteristic impedance (Z0) Ω
Effective relative permittivity (εr,eff)
Capacitance per unit length (C') pF/m
Inductance per unit length (L') nH/m
Phase velocity (vφ / c = 1 / √εr,eff)
Physical length () mm
c : speed of light in vacuum
zcbcpw - analyze conductor-backed coplanar waveguide. Rev.1.21 (2026-03-03) (c) 2022, Takayuki HOSODA
⚠️ 適用範囲: 詳細は導体厚さ補正セクションの モデル適用範囲 参照のこと。

本稿で用いる数式 [simons], [wadell], [hilberg]

formulas used for cbcpw-1.2
Where:
η0 η0 = √(μ0/ε0) = μ0c ≈ 376.730 313 412 Ω (CODATA 2022)  is the intrinsic impedance of vacuum.
K(k)  denotes the complete elliptic integral of the first kind:
definition formulas of the elliptic integral of the first kind
The argument k is the elliptic modulus.

導体厚さ補正 (Conductor thickness correction)

上記の閉形式 CBCPW 式は、導体厚さが無限小 (t → 0) であるという仮定のもとで導出されています。 しかし、実際の PCB では有限の導体厚さが存在し、それによりスロット領域の電界分布が変化します。

導体厚さ t > 0 の場合、

本モデルでは、独立した追加容量を導入するのではなく、 準静的電界エネルギーの一次的な再配分として厚さ効果を扱っています。

具体的には、空気側楕円積分比 R1 に対して:

formulas for delta

という補正を与えます。

ここで

formulas for delta
です。

この式において、

を表します。

δ の関数形は、有効な側壁電界経路長を反映したものです。 薄導体条件ではおおよそ t/s に比例し、 ts に近づくにつれて幾何学的に飽和する挙動を示します。

本補正は厳密な等角写像から導出されたものではありませんが、 準静的容量分布に対する物理的妥当性に基づいた一次近似です。

提示した適用範囲内では、 この補正により単純な線形 t/s モデルで見られる w/h 比への過度な感度が抑制されます。 特に t / sqrt(s^2 + (α * t)^2) という形式を用いることで、有限側壁電界の広がりをより適切に表現しています。

実用的な PCB 幾何条件において、二次元静電界シミュレーションとの一致は通常数%以内です。

モデル適用範囲(Model applicability limits)

本モデルは、以下の範囲で検証を行っています。

上記範囲外では、高次の電界再分布効果や準TEM的な電界分布からの逸脱により、 誤差が増大するおそれがあります。
精度は特に s/h によって制限されます。 s/h > 1.5 の場合、電界分布は準静的な等角写像仮定から徐々に外れていきます。
また、s/w が大きくなると、 電界構成は典型的な CPW 分布から次第に乖離します。 これらの領域では、本準TEM近似および一次導体厚補正式の精度が低下する可能性があります。
s/h が概ね 1.5 を超える場合、あるいは s/w が概ね 2.0 を超える場合には、フルウェーブ電磁界解析の併用を推奨します。

Appendix A — 二次元静電界シミュレーション結果 (例)

厚さ補正モデルの較正および検証に使用した2次元静電場シミュレーションの代表的な解析例を次に示します。
シミュレーション領域の寸法:
グランドプレーンの幅 W = 12h + 2s + w, 上限の高さ H = 8(h + t).
単位は任意です。外周境界はグランド電位の境界条件とします。

w = 250, h = 200, t = 18, s = 100, εr = 4.6 → εr,eff = 2.85, Z0= 50.382 Ω
w = 250, h = 200, t = 18, s = 150, εr = 4.6 → εr,eff = 2.95, Z0= 53.991 Ω
w = 220, h = 200, t = 18, s = 180, εr = 4.6 → εr,eff = 2.96, Z0= 58.753 Ω
Pseudo color visualization of absolute value of the electric field of a cbcpw
Pseudo-color map of the electric field magnitude |E| for the CBCPW structure.
w = 250, h = 200, t = 18, s = 100, εr = 4.6

Appendix B — 二次元静電界シミュレーション 対 閉形式近似 (例)

この追補では、背面導体付きコプレーナ伝送線路(CBCPW)構造の代表例について、 本稿で用いた閉形式モデルと二次元静電界シミュレーションとの比較例を示します。

二次元静電界シミュレーション 対 閉形式近似
数値シミュレーションの結果は比較のみを目的として図示しています。
その絶対値はソルバーの設定と境界条件に依存するため、表形式の生データは意図的に省略しています。

本文中に示した適用範囲内では、 実効誘電率(εr,eff)および特性インピーダンス(Z0)のいずれも、 二次元静電界シミュレーション結果に対して概ね ±2.5% 以内に収まります。
参考として、従来の厚み補正式 δ = α t / s,(α = π/2) を用いた場合、同一パラメータ範囲における偏差は、 εr,eff で約 -5.3% ~ +2.5%、Z0 で約 -7.2% ~ +1.8% となります。

Appendix C — AGM と K(k) / K(k') との関係

The ratio of the complete elliptic integrals of the first kind K(k) and K(k') can be calculated by the following relation with the ratio of arithmetic-geometric means (AGM). The argument k is the elliptic modulus.
Relations of AGM and Ratio of the Complete Elliptic Integrals of the First Kind
where agm(1, k) is the arithmetic-geometric mean of 1 and k.

参考文献

  1. R. N. Simons, Coplanar Waveguide Circuits, Components, and Systems, New York, NY, USA: John Wiley & Sons, 2001.
  2. V. F. Hanna, "Parameters of Coplanar Directional Couplers with Lower Ground Plane," in Proc. 15th European Microwave Conference, 1985.
  3. W. Hilberg, "From Approximations to Exact Relations for Characteristic Impedances," IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques, vol. 17, no. 5, pp. 259-265, May 1969.
  4. B. C. Wadell, Transmission Line Design Handbook, Norwood, MA, USA: Artech House, 1991.
  5. G. Ghione and C. Naldi, "Parameters of Coplanar Waveguide with Lower Ground Plane," Electronics Letters, vol. 19, no. 18, pp. 734-735, Sept. 1983.
    (Note: Error in equation for k1′ on p. 735.)
  6. M. Riaziat et al., "Single-Mode Operation of Coplanar Waveguides," Electronics Letters, vol. 23, no. 24, pp. 1281-1283, Nov. 1987.
  7. Wentworth, Stuart M., et al., "The High-Frequency Characteristics of Tape Automated Bonding (TAB) Interconnects, IEEE Transactions on Components, Hybrids, and Manufacturing Technology, vol. CHMT-122, no. 3, pp. 340-347, Sept. 1989

関連項目

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